8月に入って早々株式市場が大荒れだ。日経平均は2日(金)に2216円暴落したのにつづき、5日(月)はさらに4451円安の大暴落となった。7月後半から急激に円高に転じたこと、さらに米国の雇用統計が市場予想を大幅に下回り経済減速の不安が強まったことが引き金になった、らしい。また日本では今年から始まった新NISAによって貯蓄から投資にお金が流れたことで、膨らんだ風船が一気にはじけた、という面もあるだろう。実態を伴わない株価の上昇が調整局面に入ったタイミングとも重なった。今年の上昇分が、この2日で泡と消えてしまった。新NISAをきっかけに今年から投資を始めた初心者は早くも狼狽売り、NISA撤退すべしのコメントまででている始末だ。
だが、私は驚きこそすれ狼狽はまったくしていない。私は経済や金融の専門家ではない。株の売買は20年近くやっていても、今年の株価上昇でようやくプラスに転じた程度の素人投資家に過ぎない。だが先日の記事にも書いたとおり「何のための投資」なのか、目標設定ができたことで日々の変動に一喜一憂する必要がないことを悟ったのだ。
そもそも多くの投資初心者は、投資とはなにか、なぜ儲かるのかを正しく理解していない。「この2日間で1000万円の損失だ」といった煽りのコメントを見たが、株価が下がっても見込みの売却益が減っただけであり、買値以下で売却しない限りは損失にはならない。また株価は企業価値を示しているとはいえ、外部要因で株価が下がっても企業の業績に直接影響を与えるわけでもない。もちろん米国や中国の経済が失速すれば輸出量が減って利益が下がる可能性はあるし、円高も輸出企業には打撃となる。中長期的にみたトレンドは変わっていくかもしれない。だが少なくともこの数日間(まだ続くかもしれないが)の株価の変動がそのまま各企業の真の価値の変動というわけではない。
株は人気投票だと言うが、まさに的を射ている。ある会社の株価が10,000円だとして、その株を11,000円で売りたい人と11,000円でも買いたい人の取引が成立して初めて株価は11,000円になる。逆に9,000円で買いたい人に9,000円で売れば株価は9,000円だ。当たり前だが株価の変動の裏側では買い手と売り手が株の売買を行っている。そしてそれぞれに立場や目的が異なり、なりふり構わず売りたい、と思う人および株数が多ければ株価は急落する。今回の大暴落も売った人の数だけ買った人がいるし、決して大多数が株を手放したわけでもない。
企業価値が変わらなければ、時間がかかったとしても株価はまた元に戻っていく。それどころかその企業が成長すれば、株価は元の価格以上に上昇するのだ。それが分かっている投資家が、初心者投資家が狼狽して投げ売った株を拾い集めたに過ぎない。
そもそもNISAは長期分散投資が基本であり、上昇と下降を繰り返しつつも世界経済は成長していく、という大前提がある。世界経済と連動する投資信託を毎月一定額購入しておけば価格が下がったときには多くの口数が購入できるので購入平均額は下がっていく。そのあと価格が上昇したタイミングで売れば多くの利益を手にすることが出来る。これがドルコスト平均法の考え方だ。
世界の人口が増えていく限りは世界経済も成長するし、自国の人口が減っているとしても世界に売り先があれば先進国経済も発展の余地は十二分にある。NISAの基本、大前提は崩れていないのだ。
ただし、NISA熱につられて実態を伴わずに株価が上昇していた一部の企業の株価は、投資ではなく投機(ギャンブル)の状態となっていたため、今回の大暴落で本来の企業価値にまで株価が下がればそのあと今の価格に戻るにはとてつもない時間を要するし、二度と戻ることはないかもしれない。身の程をわきまえずに信用取引に手を出したことで、追証によって持ち株を売らざるを得なくなった人もいるだろうが、それもまた自業自得だろう。資産運用・資産形成はリスクをいかに抑えるかが肝要なのに、ギャンブルまがいの投機に手を染めてはいけない。
今回のように、株価は様々な理由で変動する。その変動を予測できるかのようにうたう書籍やブログ、youtubeなどは多数あるが、それはほぼ100%が嘘だ。過去のチャートを持ち出して株価変動には特徴や法則があるといっても、それは後付けに過ぎない。たまたま予言が当たっただけで、実際の値動きは誰にも分からない。株は人気投票であるから、大衆心理の逆を突けば儲かることもある。だがそれも確実と言うわけではなく、一つ間違えれば取り返しがつかないことになる。結局は短期的な売買は高リスクなのだ。焦って売買してもくじ引きのようなもので、長い目で見れば良いことはない。株価を眺めていてもストレスになるだけで、日々の幸福感にも影響が出てくる。これでは何のために資産形成をしたいのか分からない。
人生を捧げるほどの時間や覚悟がないのであれば、個人投資において短期的な売買差益は求めないのが身のためだ。
株価が暴落しても心を乱さない投資戦略
今回の件で、私の投資戦略、出口戦略が間違ってないのだと実感できた。振り返ってみよう。
①株主優待を目的に買っている株
まず、株主優待を目的に買っている株については、毎年優待を受け取ることができるかどうかが大事だ。保有期間に縛りがある企業もあるので、どれも1年以上は売却するつもりはない。そのため一時的に株価が下がっても何も気にすることはない。逆に保有数を増やすことで優待で得られる商品やショップ券の数が増える銘柄はチャンスだと思って、特定枠(非NISA枠)で買い足した。
②現在積み立てしている投資信託
正直なところ、ラッキーだと思った。ちょうど7月にNISA購入銘柄を見直し「日経平均高配当利回り株ファンド」を買い始めたところだったので、株価が下がればそれだけ多くの口数を購入できる。配当は口数に応じて得ることが出来るので、安いときに多くの口数を購入すれば、それだけ多くの配当を得ることが出来る。これからしばらく購入単価が下がっていけば、それだけ将来のインカムゲインが増えるということだ。世界株式ファンド一点張りの風潮に疑問を感じた末の決断だったが、今のところは大正解だった。
③以前にNISA枠を使用して購入した株や投資信託
数年前に購入していた世界株式ファンドや日本企業の株は軒並み下落し、50%近くあった利益が吹っ飛んだ銘柄もあった。さすがに少しショックだったし暴落する前に売っておけばよかったとは思うものの、よほどの専門家や預言者でもないかぎり無理な話だ。できないことを後悔しても意味がない。それに利益と言っても”見込み”であり、買値以下に下回ったとしても損失もまた”見込み”に過ぎない。売却しなければ利益は確定しないし損もしない。すぐに現金化が必要なわけでもないので、乱降下は気にせずに放置するに限る。遠い未来のことを心配しても仕方がない。
NISAは始まったばかり
新NISAの開始に合わせて投資を始めた人たちにはショッキングな日々が続いている。だがこの半年間、株価が上がり続けていたのもたまたまだと思ったほうが良い。そして今回の暴落もたまたま起きた。素人には手の及ばない、まさに神の領域だ。そこに対して素人が戦いを挑んでも勝てるわけがない。仮に勝てたとしても、勝ち続けることはできない。
新NISAは将来的な資産形成のための施策であり、そのゴールは10年以上も先なのだ。10年もあれば株価の暴落や高騰は度々起るものだ。そのたびに焦って売買をすれば、かえって傷口を広げることになる。我々素人がNISAの恩恵に預かるには、長期的に分散して買い続けるしかない。積み立ての設定を入れたら、あとは基本的には眺めておくか、もしくは通常は放置しておいて、年1~2回は積み立て状況を確認し、必要に応じて売却や購入銘柄の変更を検討する。それがNISAとの正しい付き合い方というものだ。
今回の乱降下に振り回されてしまった人たちは、NISAから撤退するのではなく、学びを得たと思って教訓にしてほしい。NISAは始まったばかり。これから経験を積んで学んでいくことは、まだまだたくさんある。