休暇中は会社スマホをチェックしない

仕事をマネジメント
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コロナ禍以降で始まった在宅勤務

コロナ禍で出勤が制限された際、会社がとった最初の施策は従業員に業務用スマホを配る事だった。

2020年4月、政府による緊急事態宣言のあと会社から各部に対して出社人数を半分以下に減らすよう通達があった。そのときはまだリモートワーク環境などなかったため、会社で使っているノートパソコンを自宅に持ち帰ることが特例として許可された。だがそのパソコンから会社のネットワークには繋がらないので、資料など必要そうなドキュメントをパソコンの保存する、または印刷して持ち帰るしかなかった。出勤メンバーとの連絡も個人のスマホを使わざるを得ず、実質ほとんど仕事は進まない。効率は度外視だった。

そこから会社はリモートワーク環境の整備に動き出したものの、ノートパソコンは著しく品薄になってすぐに調達が出来ない。それでもiPhoneは入手が容易だったようで、夏前には私の手元にも業務用スマホが配られた。しかもこのスマホは会社のOutlookやTeamsに繋ぐことができたので、在宅ワークで出来ることが一気に増えた。パソコンはオフラインのままでも、作成・修正したドキュメントを写真にとって他のメンバに確認を依頼したり、上司に簡易的なレビューをしてもらえるようになった。今と比べればまだまだ不便極まりないが当時としては画期的な進歩だった。ディスプレイは小さいがTeamsでWeb会議に参加できるようにもなった。

その後、リモートワーク環境が整備されて、社内ネットワークに接続可能なノートパソコンがほぼ全社員の配布された。機密情報や個人情報にアクセス可能なシステムを利用する場合や、サーバ室での立ち合い、電子化されていない請求書の経理処理など、出社が必要な一部のケースを除けば在宅勤務で困ることはほぼなくなった。緊急事態宣言が解除された後もクラスター発生によるグループ全滅を回避するため、ローテーションでの在宅勤務が推奨され、様々な環境・ルールが整備されたことで、在宅勤務は完全に一般的になり市民権を得た。

ただし在宅勤務にはデメリットもある。多忙で仕事が終わらないときは深夜時間帯であっても終電を気にせず仕事を続けることが出来てしまうので、例えば家族と夕食を取った後から業務を再開することも可能になった。それまでは終電という制約があり限られた時間でどこまで質を高めるかが重要だったが、リモートワークであれば終電はない。資料や報告の質にこだわるあまり、睡眠時間ですら削って働くことが出来てしまう。また在宅勤務で対面でのコミュニケーションが減ったことで問題や疑問を自力で解決できず、かえって効率が下がる人もいる。出社していればちょっとした声掛けや雰囲気で状況を共有できたが、オンライン環境では同じようにはいかない。そのため時間外労働時間がコロナ前よりも著しく増え、体調やメンタルに支障をきたす人も出始めた。在宅で働ける環境ができたことで仕事と家庭の境界線があいまいになり、ワークライフバランスが崩れてしまったのだろう。時間をかけすぎて必要以上に仕事の質を高めるのは自己満足に過ぎないのだが、その判断が個人の裁量になってしまった。

以前は、システム障害などでデータセンタやベンダから電話がかかってくるケースを除けば、出社しなければ自宅ではなにも仕事は出来なかった。もっと昔は会社から自宅にメールで資料を送っておいて、休日や夜間にその作業を進めることも可能だったが、セキュリティやコンプライアンスの面でガードがかかっている。そのため作業が遅れていても、休日出勤をしないなら自分の頭で考えを整理するか、手帳にメモるか、できることはそれくらいだった。

さすがに会社もこの状況を見かねて、在宅勤務時のルールを整備していった。パソコンのログイン・ログオフ時間を自動収集し、深夜にパソコンを起動した場合はその理由を報告しなければならない。また月45時間以上の時間外労働をするには、上司の事前の許可が必要だ。またエンゲージメントの強化も兼ねて、定期的な1on1ミーティングも制度化された。こういったルールと、それを浸透させるための啓蒙活動によって、ようやく在宅勤務は制度として安定してきた。

あらためて振り返ってみると、2020年度の初めから約4年、労働環境は革命的に変わったことが分かる。

会社スマホをチェックしてはいけない理由

リモートアクセスが可能なパソコンやスマホが配布され、その利用が定着し環境が整ったことにより、いつでもどこでも仕事が出来るようになった。カフェなどのオープンスペースでの勤務は会社から禁止されているが、移動中でもスマホがあればメールやチャットでのコミュニケーションは取ることができる。会社からは、休暇中や業務終了後であってもチャットやメールでyes、Noといった返事をするような数分程度のやりとりなら勤務扱いにしなくても良いという通達も出ている。休暇中のスマホ利用は一切禁止する、という選択肢もあったと思うが、そこは会社として業務を優先してほしいというの本音が透けて見えている。もちろんチャットやメールだけでも、一定時間に及んで勤務とみなされれば勤務申請を上げれば残業扱いとなる。働きたい、仕事を進めたいという働く側の要望もあるだろう。

実際、有給休暇をとると、休み明けに休んだ日の分のチャットやメールをさばくのはかなり骨が折れる。優先順位が高そうなものから順次返信をしようにも、新たな問い合わせや依頼と同時並行で処理しなければならない。さらに連続休暇で数日間不在にすると、休み前の記憶が薄れていることもあって、正常運行に復帰するまでに時間がかかり、その負担もかなり大きくなる。そのため、休暇中に少しずつチャットやメールをチェックし、こまごまとした用事を減らしておいたり、タスクを手帳などに整理しておけば、休み明けの仕事の能率は全く変わってくる。自身の負担ずっと少なくなり、会社やメンバへの影響も最小限に抑えることができて良いことずくめだ。

と、私も以前はそう考えて、有給休暇中でも用事がすめばスマホでメールやチャットをチェック・返信していた。だが今年の3月に、溜まっていた昨年度の5日間の有給休暇を取得した時から考えを改めることにした。それには主に四つの理由がある。

理由①:会社に人生を捧げてはいけない

あたりまえのことだが有給休暇中なのだから仕事のことを考える必要はないのだ。すべきではない、といっても良い。例えメールやチャットに費やす時間が5分程度であったとしても、頭を切り替えるのにはそれ以上に時間がかかるし、送ったメッセージに応答があればさらに時間を費やすことになる。応答があるまで度々チャットをチェックすることになり、結局は休暇時間にもかかわらずある程度の時間を奪われる。自分を楽にするためだと理由付けしたところで、やっていることは残業と同じだ。しかしそこに残業手当は発生せず、無償で奉仕しているようなものだ。用事が終わったとしても、余った時間は仕事以外に活用すればよい。せっかく限りある有給休暇なのだから、そこでしかできないことをすべきだ。そこで仕事のことを考えてしまうのは、ワークとライフのバランスがワークに寄りすぎている。人生の一部を会社に捧げて奉仕しているようなものだ。役員など経営側の立場でない限り、管理職であってもそこまでする必要はない。

理由:②中途半端になりかねない

次に、対応が中途半端になってしまう可能性がある。たまたま見たチャット、メールに対して返信したとして、その相手は、送ったメッセージにすぐ反応がきてありがたく思うかもしれない。だがそのやり取りは途中で中途半端に途切れてしまい続きは休暇明けから再開、というようではかえって迷惑をかけかねない。それに確実にこたえられる内容ならまだしも、限られた情報で誤った判断をしてしまっては意味がない。それなら休み明けに必要な情報をそろえて確実な回答をすべきだろう。

理由③:本当に重要な連絡は向こうからやってくる

依頼・相談・質問のほとんどは、実はそこまで急いで回答しなくても良い。休暇で不在になる事をあらかじめスケジュールに登録しておいたり相手に連絡しておけば、休み明けにならないと答えはこない事を相手は理解している。それでもタマを渡して身軽になりたい。もちろん早く回答があれば助かるのだが、遅くてもそこまで業務に支障が出るわけではない。様々なタスクを抱えていると、少しでも自分の管理するタスクを減らしておきたいので、チャットやメールでとりあえず質問を投げておいて相手にタマを渡しておこうとする、ただそれだけだ。

もし本当に急ぎの回答が必要であれば、上司に掛け合って相手の上司に相談したり、電話などで連絡を取る、といった緊急手段を使うだろう。非常事態に個人スマホにかかってくる電話にさえ出られるようにしておけば、あえて休暇中に業務スマホをチェックしなくても良い、というわけだ。

④属人化の脱却、メンバ育成の機会になる

私にはこの理由が一番大きいのだが、今年に入ってグループの体制が少し変わり、私の配下のメンバーが増えた。そして今まで私が担当していた案件や作業を極力他のメンバーにまかせることで、私しか知らない作業やタスクを減らし、グループ内の属人化を脱却することがミッションになった。また、私がいつ出向元に戻っても良いように、今いる他のメンバーを育成しなければならない。それには、個々のメンバーを信頼して任せることがが重要となる。

もちろん必要な最低限の引継ぎや説明を行った上で、どうしても困ったことがあればグループ長に判断を求めるか、回答期限を延長要否を確認するように指示をしておく。そのうえで、メンバ個々に判断を委ねる。そうすることで責任感や当事者意識が高まるし、私の不在時に滞りなく業務を回すことが出来れば自信にもなる。失敗しても、理解不足や判断基準の誤りに自分で気づくことで、成長の機会が得られるのだ。影響が限定されていれば、その許容範囲内で信頼し任せる事で、人はより成長することができる。

1月、2月の他のメンバーの様子を見ていて、最低限の判断は個々に委ねても問題ないことが分かった。実際、休み明けにはチャットやメールの整理は必要だが、先に主だった案件の進捗や問題を他のメンバから直接ヒアリングしておけば、あとは取るに足らない内容ばかりなので、内容を確認するのに1日もかからなかった。休み明け2日目からは、休み明け前と同様に業務を再開することができた。

思い切ってやめてみても、意外と何とかなる

欧米では、実は日本以上に属人化が進んでいるという。にもかかわらず、彼らの多くが日本人よりもずっと長い期間の休暇を取得する。よほどチームで進めている案件出ない限り、その休みの間は仕事も止まるのだが、それでも大抵のことは何とかなるらしい。

細かい仕事の進め方、文化の違いは分からないが、本当に特別なノウハウが必要な仕事でない限りは他の人でも代わりが利くものだ。そして代わりが利かないような価値の高い特別な仕事については、休み明けまで依頼者を待たしておけばよい。または、本当に急ぎであれば、依頼者側が努力してコンタクトを取ってくる。

仕事や会社に献身的に尽くしたとしても、死ぬまで面倒を見てもらえるわけではない。ワークとライフは別であり、ライフを中心に考えた上でワークもより良くする、という考えを持ってみると、意外といろいろなことがうまくいったりするものだ。

とりあえず休暇中、業務スマホの電源をオンにはしない事から始めてみてはどうだろう。

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