中学生の息子が友だちとユニバに行きたいと言ってきた。大阪に住んでいればこれは自然な流れなのだろう。そして思春期真っ盛り、少しずつ親離れをしていく。親と出かけるよりも友だちと遊ぶ方が楽しくなってくる。子供の成長を実感しそれは嬉しいことだけど、背を見送るのはやはり寂しくもある。とはいえせっかくなので少しでも息子の成長の機会になれば、と思うのが親心だろう。
ユニバは高い
コロナ禍で外国人観光客の入場者の回復が遅れている中で、各テーマパークは軒並み入場料を上げている。集客数を増やすことよりも入場者により高い価値を提供することに注力し、その価値に見合った入場料を取ることにしたのだ。
2001年の開園時はユニバの入場料は大人1人5,500円だった。これが今や繁忙期で9,800円と約2倍だ。1月の閑散期であっても8,900円もする。しかも中学生は大人扱いで学割などない。それに途中出場はできず食べ物の持込みもできないので食事はユニバ内の飲食店を利用するしかない。これがまた普通に食べれば2,000円前後はかかる。朝早くから並んで昼食・夕食と食べれば食費だけで1人5,000円はくだらない。
私自身としてはニンテンドーワールドを除けばユニバにはあまり魅力を感じていない。なによりコスパが悪い。でも嫁や子供と特別な時間を過ごすことはできるし、家族が楽しむ様子が見れる機会なので、年1回はユニバに行く程度なら悪くない。
息子もこの金銭感覚は大事にしてほしい。家族で行くときはほとんど親が支払うし、チケットはオンラインで飲食代もクレジットなので、ユニバに行くとどれだけかかるのかを子供が意識する必要はない。友達と行くのであれば、これは良い学びの機会となる。
プレゼンさせてみる
早々に日程が決まり、私も嫁も行くことについては了承した。冬休み明けのテストも終わり、期末テストは1か月後なのでタイミングは悪くない。閑散期の今ならアトラクションに並ぶ時間は少なくて済むだろう。
しかし息子がユニバのホームページを開いたスマホを私の顔の前の突き出し「お父さんチケット買って」と不しつけに言うのでこれは即座に却下した。支出はチケット代だけではない。トータルでいくらかるのか、ほかに親にして欲しいことなどを整理して説明してほしい。チケット購入はそれからだ。そして整理・説明のためにはメモ程度でもよいので紙に書きだすこと。これはユニバに行く話が出た時から息子に話していたのだが、うまく伝わっていなかった。
息子は嫁の陰ながらのフォローを得ながらユニバでどう過ごすのかを友だちと相談し、彼なりの準備をして私の前に座った。手には紙とペンを持って、そしていきなりまくし立てる。
・ユニバのチケットは8,900円くらいかかる。
・昼ご飯は2,000円くらいかかる。
・夜ご飯は1,500円くらいかかる。
・ゲームとかもしたいので1,000円くらいかかる。
彼の手元の紙には、薄く走り書きした文字と金額が書かれていたが、その紙を私に見せるわけでもなく、説明しながら金額が書かれたあたりを丸で囲んだりしていた。そして若干の緊張があるのか、ペン回しをしながら説明してくれた。彼なりに頑張っていたのかもしれないし、初めてなのでそんなものかもしれないが、プレゼンとしては0点だ。
「で、なに?」
結局私がなにをすればよいのかはわからないままだ。金額の説明に「~円くらい」が多すぎてて、全体的にふんわりしている。明らかに「ユニバで友達と過ごす一日」を息子自身が具体的にイメージできていない。なぜ夕食のほうが昼食よりも安いのか。また2食とも店内でしっかり食べるのか、食べ歩きして待ち時間を有効活用するのか。どういった価格帯の店に行くのか、金額設定は妥当なのか。そのあたりが分かっていないので再び却下、出直しだ。
友だちはすでにチケットを買っており、出遅れた息子は少し苛立っていた。私が回りくどいことをするので嫁も少し呆れていたが、しかしお金の話なのでここは私も譲れない。
プレゼンの基本
プレゼンのノウハウ、コツはいろいろあるが、簡単なところでは以下の5つがポイントだ。
1.プレゼンのゴールを意識する
2.目的のために、対象者に期待する行動を整理する
3.対象者の行動を具体的にする
4.対象者にとってのメリットを考える
5.説得の段取りを考える
プレゼンのゴール、それは「目的のために対象者を動かす」ことだ。そしてそのために、聞く人の心を動かさないといけない。一方的に欲求を押し付けてもダメで、これは交渉なのだ。相手にとってのメリットがなにかも考えて条件として提示することが大事だ。
今回であればゴールは親に「ユニバに行くことを許可してもらう」「ユニバの入場券を買ってもらう」「ユニバで使うお金をもらう」の3つだ。これらについてより具体的な整理をする。
・なぜユニバに行きたいのか
・誰といつ行くのか
・何時までに帰るのか
・晩御飯の準備は必要なのか
・ユニバの入場券はいくらか
・チケットはどうやって息子に渡すのか
・ユニバで何にお金を使うのか
・ユニバでのお金の使い方に納得性・妥当性はあるか
・私にとってのメリットはなにか
息子のプレゼン リベンジ
プレゼンのポイントを息子に伝えてリベンジしてもらった。今度はまるでスティーブ・ジョブズのように、リビングに立ってプレゼンを始めた息子。手元の紙を見続けたり手足をぶらぶらさせたりとプレゼンスキルの面では言いたい事はたくさんあったが、それでも私と嫁からの質問(ツッコミ)に必死に答えてくれた。
結果的に「友達とユニバで最高の思い出を作りたい」という(若干安っぽい)息子の思いは伝わった。そして「ユニバに行った後は期末テストに向けてゲームをする時間を減らす」という条件提示も飲んで、
・入場料8,900円を払ってチケット購入(息子にLINEでQRコードを送付)
・食費、ゲーム、お土産代で7,000円と、予備で5,000円を渡す(明細を報告し、あまったら返金)
この二つを了承した。
一連のやり取りで「お金をもらう」ことの難しさを少しでも学んでくれていたら、これ幸い。