監視社会の生き方

政治と経済をマネジメント
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インターネット黎明期を知っている世代

私が学生の頃、世の中にスマホはまだなかった。大学に入ってガラケーを購入し、ショートメールで友人や家族とコミュニケーションをとっていた。インターネットが普及し始めていた頃だが、今と比べればネット上の情報量は格段に少なく、最新のニュースをネットで見る、という状況ではなかった。通信速度がかなり遅かったので、少し大きなファイルをダウンロードするだけでも数時間かかった。好きな歌手のファンサイト上のチャットでファン同士が交流したり、オンラインゲームを楽しんでいた。深夜11時からインターネット接続が無料になる「テレホーダイ」というサービスを皆が利用していたため、インターネットは夜に自由に時間が使える人たちのものだった。自分でホームページを作って他愛もない日記を書き、またGIFアニメーションを作って公開するなど、インターネットの用途はそれくらいだ。

インターネット上の情報は自然に湧いてくるものではなく、自分も含めて常に提供者がいるのだ、ということを自然と理解していた。

そこからADSLなど、高速かつ接続料金が固定のサービスが普及するとともに、インターネットの利用者が増え、たくさんの情報が集まりだした。「ひろゆき」が管理人を務めていた匿名掲示板2ちゃんねるには常に生きた情報があった。そしてそこは「うさん臭さ」もあふれていた。誰かの発言がきっかけで炎上しても、所詮は999件までしか書き込めない掲示板の中の、匿名者同士のやり取りだ。個人を特定する必要もないような、非現実世界の出来事だった。

インターネットを使ったサービスが少しずつ生まれ、企業が様々な情報を提供し始めた。ニュースや天気予報、映画の上映スケジュールなど、インターネット経由で得られる情報が増えた。クレジットカードの利用明細をWebで見ることが出来るようになった。いつからか、インターネット上の情報が新鮮さと正しさが求められるようになった。そしてスマートフォンが生まれ、皆の手の中にインターネットがあることが当たり前の世界になった。

でも、スマホはあくまで情報に繋がるための入り口であり、情報を発信するための道具に過ぎない。スマホの中に情報があるわけではない。インターネットという、巨大に膨れ上がった情報ネットワークにスマホを使って接続しているだけだ。

インターネット黎明期に育った人たちは、このことを自然と学んできた。

生まれた時にインターネットが存在している世代

Z世代(1996年から2015年の間に生まれた世代)は、生まれた時にすでにインターネットが存在している。物心ついた頃には、スマホを使えば何でもできる世界の中にいる。様々なことが、インターネットの存在を前提として成り立っている。コミュニケーションはLINEやFacebookなど、スマホアプリを使っている。誰かと待ち合わせするのに、場所と時間をあらかじめ細かく決めておく必要はない。待ち合わせに遅れても簡単に連絡が取れる、とても便利な世界だ。

インターネットの本質はなにも変わらない。それは巨大な情報ネットワークだ。しかしスマホを持つ一人ひとりがそこに繋がる入り口を持つようになった。個人にとっては友人・知人と繋がるためのネットワークなのに、その先は世界中に繋がっている。不特定多数の人々が同様に繋がる世界、うさん臭いものにあふれた世界なのだ。私たちはこの事実を、実体験を積み重ねることで知識ではなく経験として理解している。Z世代は果たして、どこまで理解できているのだろう。

インターネットに繋がることで、同じくスマホを手にしているたくさんの人と繋がる。意図しなくても、友人・知人に対して発信した情報は知人から知人へ、気づけば国中に、世界中に届けられる。そしてこれは一方向ではない。拡散しやすい情報というものは、倫理道徳・公益に反していたりするものだが多いので、それらを守ろうとする意識をもった自警団のような人たちから監視されている。

そして迷惑動画が生まれる。

過ぎた悪ふざけをしてみたい、という欲求そのものは誰しもが持っている。そして面白い情報を友人・知人に伝えるには、動画というコンテンツはうってつけだ。音声や写真とは情報量が桁違いなので、撮影した本人の興奮・感情をそのまま伝えることが出来る。親しい友人とだけその状況を共有するために撮影し、軽い気持ちでSNSに投稿した動画は、拡散して自警団に見つかり、迷惑動画となる。

また、こういった動画は視聴者の興味を引くのでメディアも取り上げたがる。自分たちでコンテンツを作るよりもずっと手軽だ。自警団側に立って、正義を振りかざせば共感を得られる。そしてさらに動画は拡散していく。

監視されていることを知っているか

当然ながら、どんな理由であっても迷惑行為は問題だ。でもきっと私の世代でも似たようなことをしてバカ騒ぎしていた奴はいた。さすがにお店に置いてあるコップをなめて戻すような非常識な行動をしていた人は直接は知らないが、そんな度の過ぎた問題行為であっても、いつの時代でもゼロではないだろう。迷惑行為をしてふざけて騒いで、それが見つかれば店から訴えられることもあったかもしれない。でも今のように迷惑動画として拡散し、日本中から攻撃を受けるということはない。

インターネットを通して世界中の一人ひとりと繋がってしまったことで、この世界はお互いに監視し合っている状態になっている。世界のルールに反する行為、発現をしようものなら、世界中の自警団に攻撃されてもおかしくない。情報にあふれた便利な世界というのは、そういった危険・リスクを伴っていることを知っておかなければならない。

迷惑動画が話題になっている。確信犯もいるだろうが、軽い気持ちで動画を撮影・投稿したことで一生を棒に振りかねない事態になってしまった人も少なくないと思う。

今我々は、そんな監視社会を生きているのだということを、学ばなければいけない。

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