
私が勤める事業会社には社員食堂があり、肉メイン、魚メイン、カレー系、麺系と4種類の日替わりメニューを選ぶことができる。それなりに栄養バランスも考えられており味も悪くはない。たまに企画もののメニューが登場することもあり、出社日のささやかな楽しみの一つだ。
しかも福利厚生の一環として会社が一部の金額を負担しており、3月まで1食400円ととてもリーズナブルだった。しかし昨今の物価上昇の流れには逆らえず4月からは440円に値上がりしてしまった。とはいえ40円の値上げが食堂の利用をやめる理由にはならない。もはやワンコインランチは絶滅危惧種であり、800円どころか普通に千円以上のランチもざらだ。露店の弁当なら格安のものもあるが、”唐揚げとご飯”のようなボリューム重視の偏った昼食を選ぶような年齢でもない。
だがこの40円が結果として私の生活に思いもよらぬ変化をもたらした。
社員食堂の代わりにパン屋という選択肢
私はパンが好きだ。大阪市内には美味しいパン屋さんが多く、休日には嫁とパン屋巡りをすることもある。また家の近所にも気に入っているお店がいくつかあり、在宅勤務の日は昼休みにパンを買いに行っしたりもする。パンに加えて乾燥野菜を足したプロテイン入りのコーンスープを食べれば、タンパク質、食物繊維、ビタミンが摂取できて栄養バランスもとれる。通勤がないとあまりお腹も少ないので昼食としては十分だ。

会社の周りにもお気に入りのパン屋がいくつかある。だがこれまでは夜勤明けなどで帰宅途中にパンを買うことはあっても、昼休みにその日の昼食分を買いに行くことはなかった。パン屋との往復に20分程度かかるので食事する時間が削られてしまうし、総菜パンを選んだとしても食堂メニューに比べると栄養バランスが偏ってしまう。さらに街中のパン屋さんも値上がりしており、ビジネス街だと2個買えば確実に500円は超える。そういったデメリットを考えると、40円値上がりしたとしても食堂の代わりにパン屋に行こうと考える事はなかった。
40円が壁を壊す
そんなある日、会社からの徒歩圏内に私の気に入っているパン屋が出店していたことを知った。そのパン屋はとてもリーズナブルで100円台~200円台前半の価格帯でたくさんの種類を販売している。ビジネス街であってもその価格帯は変わっていない。そういえば最近そのお店のパンを食べていなかったし新しいお店にも興味が湧いたため、あらためて「出勤時の昼食にパン屋に行く」ということを考えてみた。
まず「コスト」について、1つ200円前後であれば2つで440円以内に抑えることは難しくはない。
次に「ボリューム」だが、自転車通勤で消費したカロリーを補うのにパン2個だけでは足りず、午後から空腹を覚えて仕事に支障があるかもしれない。かと言って3つ買えば予算オーバーだ。では3つ目のパンの代わりに在宅時と同様にスープを足してはどうだろう。社員食堂は持込みができて熱湯も自由に使えるので、蓋つきのマグカップに乾燥野菜を入れて持参し、食堂でお湯をもらってスープを作れば不足している栄養を補うことができる。

最後の課題は「時間」でこればかりはどうしようもないが、昼食時間をずらして1時ごろにパン屋に行けば店内での待ち時間は最小限にできるはずだ。
これは十分に勝ち目のある選択肢ではないだろうか。40円の値上げが私の心理的な壁に穴をあける音が聞こえ始めた。
広がる可能性
と言うことで、出社時の昼休みにパン屋に行く計画を実行してみた。結果から言えば、これは決して悪くない(むしろかなり良い)選択だった。
まず今の時期なら昼間に会社の外にで日の光を浴びると気持ちが良く、15分程度の散歩は適度な運動量なので気分転嫁になる。また出社・退社時とは違っていろいろな店が開いているので、ランチや飲み会の際の情報収集もできる。パン2個とスープに加えてインスタントコーヒーも持っていったので、昼食のあとコーヒーのカフェインで頭がスッキリして、午後からの仕事の能率も上がった気がする。
そこで月3~4回の頻度で昼休みに会社を出てパン屋に行く、という生活を続けてみたところ、新たな可能性に気がついた。それは440円を昼食代のボーダーラインとするのならば、リーズナブルなパン屋でパンを2個買うのと同様に、高価格帯のパン屋で400円以下のパンを1個買っても良いのでは、ということだ。
高価格帯のパンは値段は高いがその分ボリュームがあって腹持ちがするし、どうしても足りなければスープにオートミールを足してリゾット風してボリュームも栄養も補えばいい。ただその場合はオートミールが柔らかくなるのに時間がかかるため、出社する前にスープジャーに野菜とオートミール、熱湯を入れて持参し、食べる前にスープだけ足した方が良いだろう。
ということで早速スープジャーを買ってこの計画を実行に移してみたところ、オートミール入りのスープは思った以上に食べ応えがあり、パン1個でも十分に満足できることが分かった。

これなら摂取する糖質量を減らしつつも、食堂よりも昼食代をグッと抑えることができる。そして食堂でお湯をもらう必要がなければ、パンを買った後で食堂に戻らず、近くの公園などでのんびりと昼食をとることも可能だ。これで最後の課題、「時間」もクリアできる。
新たなパン活の始まり
会社近くのパン屋は訪れる機会が少ないので、いざ行くときはその日に食べる分だけでなく、数日先の分まで買うことが多かった。日持ちがしないパンは冷凍保存し在宅勤務時に食べるのだが、やはりパンは出来たてが一番美味しい。しかし出社時の昼食であれば、その時に食べたいと思ったパンを1~2個、出来たてのタイミングで食べることができる。また定期的に通うことで新商品や季節もののパンにも出会うチャンスが増えるだろう。良いことずくめであり、新たなパン活習慣が始まったと言える。
始まりは僅か40円の値上げだった。それ自体は僅かながらマイナスの影響を与えるものではあったが、それが私の日常生活・習慣に前向きな変化をもたらしたことになる。自信の受け止め方と、そこからどう行動するかによって、いくらでもプラスに変えることが出来る良い実例となった。