無意味な声援

感情をマネジメント
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パリオリンピックが始まった。

ひいきの選手や気になる競技があるわけではないし、パリと日本では時差がかなりあるため、リアルタイムに観戦をすることは少ない。それでも生中継の試合に日本人が出場していればチャンネルを止めて見入ってしまうし、スポーツニュースで録画やメダルの数を確認する機会も増えている。

日本人の出場する試合では、母校や所属企業でパブリックビューイングの様子も放送され、多くのファン、後輩、支援者が声援を送っていた。実際に声がパリまで届くわけではないが、遠く離れた日本で大勢の人が応援しているという事実は選手の励みになるのだろう。

意味のない声援

話が変わって、先日私は通っているテニススクールで開催されたダブルスの団体戦に出場した。4チーム総当たりで2ゲーム取ったほうが勝ち、最大で1試合あたり3ゲームを行う。各チーム4名以上そろえる必要があり、私のチームは同じクラスから5名が出場した。結果は2勝1敗、個人的にも3ゲームに出場して2勝1敗と、悪くはない成績だ。

テニススクールでは各クラス毎にダブルスや団体戦のイベントがあり、私は嫁やクラスの仲間と年1~2回は出場している。普段のレッスンとは違い、テニスコート内には私と相手のペアの4人しかいない。広いコートでの孤立感、静けさ、そして多くの人(と言っても10名くらいだが)の視線を浴びた中での試合は独特の雰囲気がある。普段のレッスンでは味わうことのない緊張感に思うように体が動かず、普段の力を発揮できない参加者は少なくない。特に1試合目で思うようなプレーができなければ、ずっと調子が戻らないままで試合が終わってしまうこともある。

動きが硬くなって反応が遅れたり、スイングが小さくなってネットにかかり、サーブも入らない。そしてさらに焦って平常心を失っていく。そんな時、周りで見ているチームメイトはただ声援を送る事しかできない。しかしだからといって、緊張して平常心を失っている人に対して「緊張するな!」「平常心!」と声をかけても効果はない。

意味のある声援

緊張したくて緊張しているわけではないし、緊張から逃れる方法を知っているなら最初から緊張などしない。プロや経験豊富な選手ならまだしも、テニススクールに通って数回試合にでるだけのアマチュアに平常心をコントロールする術を持っている人はそうはいない。「緊張」「平常心」という言葉を聞くことでさらに意識してしまい、緊張の呪縛から逃れることが出来なくなってしまう。

孤独な選手が苦境に陥ったとき、本来ならば具体的な解決策・アドバイスは重要だ。だがプレーの合間の短い時間にコート外からそういった効果的な声援を送るのはテニスコーチでもない限りは難しい。それゆえ素人やアマチュアが応援中にできることは、外からなにかを変えようとすることではない。お決まりの、あまり意味のない言葉を送るだけで十分なのだ。

「がんばれ」
「大丈夫」
「ナイスプレー」

失敗したり点を取られた後に沈黙があると気持ちが沈み雰囲気が悪くなって、さらに緊張感が増してしまう。そうならないよう、ただ沈黙を埋めるためだけに声援を送る。もし具体的なアドバイスが出来たところで、プレー中はほとんど耳に入らないし、聞えたところでそれを受け止めて行動に移すような経験・能力は持っていない。聞く側の準備が整っていなければどんなアドバイスも意味はない。

出来ることはないと諦めて仲間を信じる

素人やアマチュアが外側からなにかを変える事なんてできない。緊張を解きほぐし、平常心に戻れるかどうかは本人次第なのだ。唯一できることは、一生懸命プレーしている仲間を信じ、ただ応援すること。むやみに期待もしない。期待をしすぎるとプレッシャーになって仲間の手足を縛ることにも繋がる。せっかくの試合なのだから、楽しんで満足したプレーが少しでもできれば最良なのだ。それ以上を求めてはいけない。

意味のない声援こそ、実は最も意味がある声援、ということだ。

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