やる気も向上心も責任感もあるのだが仕事が遅い、という人がいる。
私のチームでは主に中・小規模のシステムの保守を担当していて、更改や機能追加、証明書の更新といった案件に加えて、システム利用者からの依頼や問い合わせ対応も多い。組織変更やトラブルがあれば問い合わせが一気に増えるし、その難易度・優先度は様々なので、ある程度柔軟かつ臨機応変な対応が求められる。
依頼作業は基本的に定型化されてマニュアルもあるので、期限に応じて順次処理していけばよい。だが問い合わせはトラブルに近いものから間違い・勘違いなど幅広く、その切り分けや優先度の判断にはある程度の経験が必要になる。また近頃は個人チャットでの問い合わせが増えており、改組やシステムメンテナンスのタイミングなどは、気付けば未読のチャットで溢れていることもある。
各システム一つ一つは専任の担当を置くほどの規模はないので、チームのメンバがそれぞれ4~5のシステムの主・副担当を兼務している。そのため様々なシステムの案件や問い合わせ対応をいくつも同時並行・マルチタスクで進めなければならない。
そういう状況でなかなかパフォーマンスが上がらない人について、原因や対策を考えてみたい。
仕事が遅い原因① 判断ができない
仕事の速さ、パフォーマンスにはいろいろな評価指標があるが、多くの場合は「誰かの期待値を下回る」場合は仕事が遅いと評価される。
トラブルや急ぎの問い合わせは緊急度が高く、優先順位を上げて対応する必要がある。また重要性や難易度、リスクの高いタスクは想定外や考慮外によって手戻りが発生すると影響が大きいため、出来るだけ前倒しで余裕を持って進めることが望ましい。何かあってもキャッチアップする時間が確保できるからだ。だがそのための下準備が不足していたり期限ぎりぎりの対応になると、少しの手戻りでもスケジュールの遅延に直結してしまう。そういった事態を避けるために、有識者や上席への報告・相談・レビューを適宜セットし、想定外や考慮外を早めにあぶり出せるように計画を立てておけば、自分だけでなく上席にも安心感を与えることが出来る。こういった先手先手の動きが十分でないと、例え運よく発注や作業の実施期限に間に合ったとしても、仕事が遅い、という印象を持たれてしまう。
だが労働時間は有限であり、また脳・体は一つしかないので、人は誰でも同時にできる作業は一つだけだ。マルチタスクと言っても、タスクを小分けして順番に一つずつ処理しているに過ぎない。そのために必要なのが、タスクの優先順位付けと、できるだけ効率的に処理できるように順番を組み替える事だ。
優先順位が高く、すぐに解決・対応が必要ならば他のタスクを飛ばしてでも最優先で処理しなければならない。とはいえ飛び込んできた緊急タスクだけを次々に処理するばかりで、緊急度は低いものの重要なタスクが後回しとなってるようではやはり問題だ。そのため緊急のタスクであっても、既存の重要なタスクと比較しても優先度が高いのか判断が必要となるし、自分で判断が出来ない場合は他のメンバや上席に判断を仰ぐ必要がある。自分ひとりですべて対応する時間がなければ周りに振るという判断もある。
そういった判断ができず、自分ひとりですべてを抱え込んで、かつ正しい優先順位付けもできないでいると、重要なタスクが滞るばかりが優先順位の低いタスクですら溜まっていく。そして時間だけでなく記憶や精神面のリソースを失い、パフォーマンスも低下しかねない。本人は一生懸命にやっていてもアウトプットが出なければその頑張りは評価されず、「仕事が遅い」というレッテルを貼られてしまう。
仕事が遅い原因② 新しいタスクにすぐに手を付ける
前述のとおり、マルチタスクとは複数のタスクを並行で進める事を意味するが、自分自身でできる作業は一つ一つ直列のままだ。複数のCPUを積んだコンピュータのように、まったく同時に二つの作業を一人でこなすことはできない。同じ期間に少しでも多くの成果を出したければ、自分の作業をできるだけ短時間で効率よく進めるだけでなく、他の人的リソースをうまく使うことで各タスクの並列度を上げなければならない。例えば調査や確認が必要なことがあればまず初めに他部署やベンダ、チームメンバに質問や調査を依頼する。その回答を待つ間に別の作業を行えば複数のタスクが着実に前に進んでいく。こういった質問や調査の依頼の一つ一つも、自分がすべき優先順位の高いタスクだと認識する。朝イチで僅か5分、依頼メールを1通出しておくだけで、調査のタスクは並列で進むのだ。
だがそれでも同時並行で進められるタスクの数には限界がある。依頼をばらまいた後、返ってきたメールや成果物を確認して自分の作業に結びつける必要がある。ここでその作業を組み込む余地がなければ各タスクはそこで滞留してし、その結果、やはり成果が出ずに「仕事が遅い」と評価される。また、ばらまいたことを管理していないと回答が来なかったときに催促もできないし、逆に回答をもらっているのにそれを見落として催促してしまうと印象が悪くなり、次から似たような依頼を引き受けてもらえなくなることもある。
そのため、他のリソースを活用する場合であっても複数のタスクに次々に手を付ければよい、というものではない。個人差はあるだろうが、私ならば手元に置いて直近の1~2時間で進めるタスクは2~3個、1~2日のスパンなら5~6個、1週間のスパンなら10個程度が限界だろう。それ以上になると、どこかの管理資料やツールに備忘録としてメモを残しておくくらいに留めて、自分のタスクからは外しておいた方が良い。10以上のタスクがあることを記憶するだけでも脳のリソースを消費するし、未完了のタスクの数が多すぎると精神的にもストレスになる。
それにも拘わらず、飛び込んできた問い合わせや上司からの指示、依頼事項をその都度タスクに組み込んでしまうとパンクしかねない。しかもそれまで手を付けていた作業をとめてしまうと、次にもとに作業に戻る際に手戻りが発生して非効率だ。よほどの非常事態でなければその時に手を付けているタスクをやりきっておくべきだし、新たなタスクが増えるのならそれまでに抱えている別タスクとのトレードオフが必要だ。
良かれと思ってなんでも引き受けていると、一つ一つのタスクが完了しないまま、誰の期待にも応えられない状況に陥る。そしてその状況は体力的にも精神的にも辛いので誰も報われない。
仕事が遅い原因③ デスクトップがごちゃごちゃしている
タスクの山を抱えてしまって能力を十分に発揮できず、その結果仕事が遅いと評価されてしまう人には『デスクトップ』が汚い傾向がある。作ったドキュメント、メールの添付ファイルを一時的にデスクトップに保存してそのままになっている。効率的にフォルダやファイルにアクセスしようとショートカットを作成して、その数が膨大になっている。
デスクトップに100個以上もアイコンやファイルを置いても、頻繁に使うのはせいぜい10個程度だろう。月1回使うかどうか、といった分を含めても20個もあれば十分だし、それ以上あってもそのアイコンを探すのにかえって時間がかかる。メールの添付ファイルなら、一時的に見るために保存しただけなら用が済めば削除すべきだし、恒久的に必要ならしかるべきサーバに移す必要がある。そういった仕分けを後回しにするとどんどんと溜まっていくので、できれば常日頃、デスクトップの壁紙が見える状態にしておきたい。壁紙をお気に入りの風景や推しキャラ、または家族や子供の写真にしてみてはどうだろう。
また、フォルダやエクセルファイル、書きかけのメールが常に大量に開いたままの状態になっていることも多い。開いたままのファイルの数の分=手を付けたまま未完了のタスク、ということだ。
私のチームで思うようにパフォーマンスが上がらないメンバーから起案手続きの相談をうけたため、先日リモートで説明をする機会があった。その時、そのメンバは20近くのファイルやフォルダを開きっぱなしにしており、私からの説明中にいくつか開いたファイルを再び参照しようとしてなかなか見つけられずにいた。大量のファイルやフォルダの海におぼれてしまい、目的のファイルにたどり着くまでに時間がかかってしまう。少しのことだが、一日何度もそういったことを繰り返すのであれば、それは一つのタスクを終えるにも余分な時間がかかるだろう。
問い合わせなどの新たなタスクに着手するのなら、その前に今書いているメールやチャットを送ってしまう、ファイルは更新する、もし時間がかかるなら保存して優先度を落とすことを習慣にするとよい。私も忘れないよう意図的にファイルやメールを開いたままにしておくことはある。どうしてもその日にやっておくべき事だが優先順位は高くないので、最悪帰宅しようとしたファイルを順番に閉じていくときに気づけば問題ない類だ。だがそれ以外は、終わったタスクに関連するファイルはその都度閉じている。
仕事の速さ=処理能力 だけではない
処理能力、記憶力、経験の違いによって仕事の速さは大きく変わる。だがそういった能力差を卑下するよりもまず、自分がやるべき事・出来ることを一つ一つ着実にやりきる事が何よりも重要だ。
・判断に迷ったら相談する
・タスクはキリの良いところまで終わらせる
・デスクトップをきれいにする
この3つを実行するのに特別な能力はなにもいらない。そしてタスクを確実に終わらせていけば、自然と経験やノウハウが蓄積し、処理能力が上がっていく。成果を出せば周りから信頼されるようになり、評価も上がっていくだろう。能力以上にタスクを抱えてしまう前に、できる事をやればいい。