ChatGPTのような生成AIの本質はGoogleなどの検索機能と同じだ。生成AIといってもゼロから何かを生成してくれるわけではない。対象のデータベースから検索条件にあったデータを抽出し、それを元ネタにして指示された条件にあうアウトプットを生成してくれる。
生成AIの活用と責任
生成AIなら、企業内の手順書や資料をインプットとし、かつ適切な指示を与えれば「手順書内の検索、抽出」や「情報収集」が可能だ。ただ指示があいまいであったり間違っていたら望んだ結果は得られない。今のところ、AIが気を利かしてくれたり自ら何かを判断することはできない。すべてはインプットする情報とアウトプットに対する指示で決まる。指示が良ければ生成AIを活かして仕事の助けにすることもできるだろう。
これは仕事において、サポートスタッフや部下を活かし成果を出すことに似ている。自分ひとりですべてをやろうとすれば、どれだけ頑張っても1.5倍の成果が限界だ。だが作業やタスクを切り出して、他のメンバの知識や経験、空き時間を活用すれば、自らは自分にしかできない、または自分でやるべき作業に時間と能力を集中できる。その結果、リソースを効率的に使って、2倍~3倍もの成果を出すこともできる。だが指示や依頼方法、タスクの切り出し方が悪ければ、依頼した作業は望んだ結果にならず、手戻りが発生したり、結局は自分でやらないといけなくなる。
つまりは、生成AIを活用できる人は、もともと組織やチームを活用して仕事をする適性があるのだ。
またAIによるアウトプットの責任は、使う側が追わなければならない。アウトプットが間違っていても、AIには責任はないのだ。他の人に依頼した作業の最終責任が依頼した側にあるのと同じだ。成果物に誤りがないか、意図した内容になっているかは、依頼・指示した側がチェックする。実績があり信頼がおける人に依頼したのなら細かいチェックは必要ないかもしれないが、それでも結果に対して無責任ではいられない。
若手や部下に指示する際は、なおさら分かりやすさが求められる。自ら必要な情報を取りに行くなど、過度な期待をしてもいけない。最低限必要な情報はあらかじめ準備しインプットする。アウトプットイメージもできる限り具体化する。成果物は十分にチェックする。経験を積んで慣れていけば、インプットは必要最低限でよくなるし、またアウトプットの質も改善・向上するので、そうなれば事細かにチェックする必要はなく、ある程度任せられるようになる。だが、任せることも含めて指示した側の責任だ。
AIが労働者の代替になる
AIは今後ますます、仕事の効率化に活用されていくだろう。すでにニュースの読み上げや、ホームページでのQAチャットなど、条件付きで実用化され始めている。少子高齢化で労働力不足の問題が喫緊の課題となっている日本だが、すでにAIは労働者の代替になり始めている。
今はまだ、メディアやインターネットを通したサービスに使用されることが多いが、今後はより物理的にも身近になっていくと予想している。介護職や運輸・流通業、工事現場などでは、すでに労働者をサポートするための機械、ロボットも導入されている。レストランでは運搬ロボットが通路を走り回る姿もよく目にするようになった。このままいけば、ロボットはより人型に近づいていき、そして高度なAIを搭載していくだろう。
ロボットがサポートすれば、労働者の仕事はより楽に、効率的になる。だがあくまでサポートなので、介護職や長距離輸送のドライバーは必要であり、労働者不足の根本的な解決にはならない。いくら自動化・効率化をしても、リアルな人間が中心となっていては限界があるのは、外食チェーン店やコンビニでのワンオペを見れば分かることだ。マイクロマネジメントをする管理者にも似ている。部下やメンバーに振った仕事を事細かにチェックするようだと、全体の生産性は上がらないのだ。
やはり、一定の仕事を確実に任せることが出来る、自律したサポートスタッフが必要だ。レストランでは注文を受けて調理し、できた料理を運び、会計し、食べ終わった食器を片付けてテーブルを拭き、食器を洗って片づける。食材が不足すれば補充し、床やトイレも掃除する。これを一通り実施できるロボットが誕生し、人と共に働くのだ。深夜時間帯などは、ロボットだけが働き、リモートで監視し、トラブルがあれば警備員やロボット保守スタッフが駆けつける、という店も登場するだろう。一昔前にみたSF映画に描かれた未来が、実現しようとしている。
ロボットだけが働く店に不安を持つ人も多いだろうが、少しずつ確実にロボットやAIは我々の日常生活に広がっている。そしてこれからますます技術の安定性、信頼性も向上するし、見慣れていくことで顧客・利用者の不安感も減っていくだろう。必要最低限のコミュニケーションしか求めない客は、人のいない方のお店を好むかもしれない。絵に描いたような人型ロボットの形状ではないかもしれないが、近い将来確実に、ロボットは労働力の代わりになる。
ロボットが同僚になる未来
企業が一人の人間を採用し、育て、維持していくためにかかるコストは莫大だ。年収500万円の人に対して、企業側のコストは年間1,000万円近くにもなるらしい。また、企業に魅力がなければ人は集まらないし、人を集めるためには賃金や手当をあげなければならない。福利厚生の充実も大事だ。そこまでしても、様々な理由で人はやめていく。どんな理由であれ離職者が出れば会社としてパフォーマンスが下がるので、そのリスクを最低限に抑えようとすればスキル継承など考えなければならないが、そんな余力がない会社も多いだろう。そもそも引き継ぐ人がいないのだ。さらに、人が集まればトラブルも起きるし、刑事事件に発展するなど、リスクを上げればきりがない。
もし、人型ロボットを1台1,000万円で導入できて、年間の維持・運用費用が200万円程度に収まれば、労働力不足の人材をロボットで補う、という選択肢がより現実的になっていく。今年は新人を50人採用し、またロボットを50台追加で導入しました、といった具合だ。
インプットデータと手段、そして成果物を指示すれば、AIを搭載したロボットは決められた作業を実行してくれる。プログラムなので、ロボットが壊れたり更改しても、プログラムを移行すればよい。育った人が離職したので一から育て直すという必要もない。故障はあるだろうが保守契約を結んでおけば代替ロボットはすぐに手配される。メンテナンスは必要だろうが、土日や夏季休暇はないので、毎日稼働させておける。成長は望めないので作業の追加や改善などがあれば、プログラムを改修する。
こうして、比較的単純だが肉体労働を伴う類の作業は、ロボットに任せられるようになる。そうなると、現時点でロボット(AI)が苦手とされている、ゼロからイチを生み出す仕事が、我々人類の主戦場となるのだろうか。ただ、マニュアル通りにしか仕事が出来ない人たちがいなくなることはないので、ロボットを導入する余裕がない企業では、引き続き低賃金の派遣労働者は残り続けるのだろうか。
結局は、減少した労働人口の一部をロボットが代替し補うことができるのは、規模が大きくまだ余力のある大企業に限定される。そして生み出す側に回れない人たちは、中小企業や派遣社員としてやっていく構図は変わらず、給料格差も解消はしない気がする。
あまり気持ちの良くない、未来予想図だ。