若手も大事だが、40代、50代こそ主戦力

仕事をマネジメント
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6月に入って、グループに新しいメンバーが加わった。先月自社に帰任→退職した若手の交代要員だ。

年齢は私より少し上だが、同世代といって良いだろう。帰任した20代後半の若手とは比較してはいけないが、着任1週間で「出来る側の人」だということが良く分かった。

着任早々、6月末に異動する他のメンバーから担当システムや案件の引き継ぎを受ける予定だ。だが運悪く引き継ぎ担当がコロナ罹患で1週間不在となった。また、引継を受ける予定のシステムのもう一人の保守担当者が3日間休暇を予定していたため、その前に最低限の保守作業の説明をした。時間も事前知識もなく、また有識者が不在な状況のため、緊急性の高い、且つ発生頻度の高い問い合わせ・依頼対応に絞っての説明だった。状況が状況なだけに、ややこしい問い合わせやトラブルが起きないことを祈る気持ちだった。

しかし1件、少しややこしい依頼があった。引き継がれている対応だけは解決しなさそうな事象だ。ただ状況をもう少し細かく確認したら何かわかるかもしれない、と、思って新メンバーに対応を依頼した。どうしようもなければ、依頼元に状況を伝えて週明けまで待ってもらうしかない。

そして数時間後、彼が「何とかなりました」と報告に来てくれた。依頼元や休暇中の担当者に連絡を取って、状況や対応方法を確認して対処したという。休暇中に連絡を取ることについての是非はあるが、新メンバーが十分な「コミュニケーション能力」「行動力」「責任感」を持っていることが良く分かった。

引継を受けていないケースなので、週明けまで対処できずに放置したところで彼が責任を負うことはない。また、自分が十分に理解していないシステムにもかかわらず、その担当者とし自ら依頼元に連絡を取るのも勇気がいる。まともな装備を持たずに矢面に立つようなものだ。相手の状況によっては事が大きくなるかもしれない。コロナが原因とは言え、所管システムの担当者が不在という状況はかなりマズイ。また着任早々、休暇中の他の担当者に連絡を取るのもためらいがあるだろう。それでも彼は、自分が出向先でなにをすべきか、なにを求められているか、そして自分が出来ることは何かを理解していた。このやりとりだけで、出向先でやっていくための素養が十分にあることが良く分かった。

40代システムエンジニアが持っているもの

我々40代のシステムエンジニアは、若いころは毎日が手探りの連続だった。今でこそ私の会社では「基盤」「ネットワーク」「業務」「運用」のように、各組織の担当領域が明確に分かれている。だが私が入社したころは「オープン系開発」「ホスト系開発」という括りしかなく、基盤やネットワークの手配、業務理解、運用引継ぎなどの全てが自分たちの仕事だった。見積・発注・契約書のチェックまで自分たちでやっていた。ルールや規定がないことも多くなにが正解か分からない。上司の指示や顧客要望が正しいとは限らず、時には自ら何が正しいのかを判断して目の前のタスクをこなす日々だった。そのため毎日が鬼のように多忙で、9時出社23時退社が日常茶飯事だった。失敗しトラブルが起こることも多かった。ただ、だからこそ自分で手を動かして得た知識や経験が一つずつ着実に身になっていった。ハードウェアやソフトウェア、ネットワークの進歩に合わせて、私たち自身も進歩することが出来た。

分からないことがあれば調べる・聞く・試すなど、なんとかして分かろうとする。指示・依頼された仕事は責任をもってやり遂げる。20年間のキャリアにおいて、こういった試行錯誤を繰り返し、やりきってきたのが我々だ。今もなおこの業界に留まっていられるのだから一定の適正もあったのだろう。若いころに修羅場を経験したことで耐性もできた。そしてこのキャリアが我々を「出来る側の人」にしてくれた。これは、他の世代にはない武器だろう。

今の若い世代は良くも悪くも整いすぎている。手順書やルール、規定、環境があらかじめ用意されており、自分で調べ・試す余地がずいぶんと小さくなっている。その反面、失敗した際の影響、インパクトも大きいので、失敗を覚悟でとりあえずやってみる、といったこともやりにくい。昔はWEB系システムが止まっても利用者はそこまで目くじらを立てることはなかったし、謝罪を求められることもなかった。今は10分システムが使えなければ会社の信用が傷つき、経済的損失も計り知れない。

整い、学びやすい状況にはなった。マニュアル通りに進めていけばたいていのことはうまくいく。会社でも研修に力を入れているところは多いだろう。体系的に順番に学んでいくことができる。プロジェクト管理も、管理資料やシステムが準備されているので、若手がプロジェクトマネージャとして複数案件を回す、ということもできるようになった。ただ、理解し習得するには、どうしても自ら手を動かし経験することが必要だが、人手不足もあって各領域を深く理解する時間がない。その結果自らのスキルに不安を覚える若手も増えているという。

50代になって後進に道を譲る

50代を過ぎ、中間管理職のポジションから外れた人と話す機会があった。今、20代後半の若手をサポートする役割についており、その若手から降りてきた指示を準委任契約しているパートナーに伝え、管理することが仕事だという。その彼が「若手からの指示がただの伝言ゲームで、指示の理由・背景を確認してもまっとうな答えが返ってこない。裏取り、妥当性の確認ができていない。」と嘆いていた。知識はあっても経験がなく、会社としては経験を積ませるためにリーダー的なポジションに置いているのだろう。そして50代のベテランがフォローすることで、育成と案件推進をうまく回そうとしている。ただ、彼の話を聞く限りでは、その若手にリーダー的を任せるにはまだ早い、または適正がないように思った。主体性が持てないのか、または案件を回すことが手一杯で一つ一つを掘り下げていく余裕がないのかもしれない。

50代で後進に道を譲る、というのもどうなのか。混沌としたITの世界をくぐり抜けて生き残っている年代だ。昭和的な考え方、管理手法が古い、といった課題はあるかもしれないが、それでも十分に主力なのだ。なにより若手にはない「実行力」を備えている。会社としては育成にコストをかける必要はなく、すでに経験・スキルは十分に持っている。それなら裏方に追いやるのではなく、まだまだ第一線で活躍してもらったほうが、会社としても利があるのではないか。そういったベテランと一緒に、若手が自ら手を動かしてスキル・経験を重ねていく方が、若手を正しく育成できるのではないだろうか。

会社からそのベテランの管理・育成スキルに対する評価が高くはないのかもしれない。ただ、だからと言って、50代という年齢を基準にして主戦力が裏方に回ってしまうのは寂しい話だし、もったいないとも思う。

40代、50代も大事にしよう

私も50代に着実に近づいていて他人ごとではない。

人材不足で優秀な若手確保が難しく、初任給を大幅に引き上げる企業が増えてきた。また若手を早く戦力にするため、育成に力を入れて管理職にも早めに抜擢する、ということも増えてきた。ただ、だからといって40代、50代社員をぞんざいに扱ってはいけない。管理職についていなくても、体力・気力が十分でまだまだ会社に利益をもたらすことが出来る存在なのだ。また定年の延長、撤廃が進んでいけば、人によってはまだ20年近く会社に貢献できる人材だ。

政府も社会も若手への投資に躍起になっているが、土台が崩れてしまっては元も子もない。我々40代、50代のベテランには、若手が主戦力になるまでの20年間を支えていかなければならない。ベテランにリスキリングを施している場合でもない。ベテランには投資ではなく、これまで得てきた経験・スキルを活かせる場をどう提供するか、が大事なのだ。本人が望む限りは裏方ではなく、表舞台で責任と主体性を持って活躍できる場が必要なのだ。

企業が存続していくために採用に力を入れるのはわかる。育児世代への補償を手厚くすることも必要だ。だがそれに加えてベテランが引き続き活躍することも、企業存続や少子化対策に十分に効果があるはずだ。

政府・企業には、40代・50代を大事にする政策・取組にも期待したい。

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