テニススクールでの練習に思うこと
毎週日曜日はテニススクールに通っている。私のクラスは生徒が多く、先日はコーチ1人に生徒が11人もいた。コーチと打ち合う時間は限られており、あとは決められたテーマや内容にそって生徒同士で打ち合ったり、サーブ練習や試合をしたりする。中高年の生徒が多いため、部活のようなハードな練習は嫌がる人が多い。かと言って単調で面白くない練習ばかりではクレームが入ることもある。また、生徒によってテニススクールに求めるもの異なる。適度な運動、他の生徒やコーチとの交流、テニスの向上など、目的の違う人たちが一緒にレッスンに参加するので、一人ひとりに指導やアドバイスの仕方を変えながら全体の満足度は下げないようにする、というコーチたちの気配りには頭が下がる。
しかし思いの強弱はあるにせよ、どの生徒も皆「テニスが上手くなりたい」と思っているのは間違いない。90分という限られた時間で、少しでもテニスの技術を向上するために毎週通っている。インドアなので季節や天気の影響は受けないが、その分レッスン料金は決して安くはないので、コスパが良いに越したことはない。
コスパを高めるために重要なのが「何を意識して練習するか」ということだ。何も意識せず、ただ来たボールを打つだけでも90分間は過ぎていく。左右に打ち分けて、と言われてその指示に従えば、それだけでも練習の効果はあるだろう。しかし「何のための練習か」を意識しその目的を理解すれば、同じ90間でも効果は段違いに跳ね上がる。
スポーツではよく、練習のための練習はするな、と言われる。試合に勝ちたければ全ての練習を試合に繋げる意識を持たなければいけない。ただ打つだけではなく、コースや強さ、また前後左右のフットワークなど、試合中の様々なシチュエーションを頭に描き、その上で狙いを決めて練習をする。試合ではプレッシャーや疲労もあるので、練習でできないことを試合でコンスタントに継続することは難しい。
テニススクールでは、各週の基本的なテーマは決まっているものの、クラス毎の細かい練習メニューや指導方法は各コーチの裁量にゆだねられている。そのため「何のための練習か」の説明の粒度には若干のばらつきがある。コーチや生徒とのラリーなど、目的が分かりやすく生徒が各自で意識できる練習ならまだ良いが、たまに「これは何の役に立つのか?」というものもある。練習を考えたコーチ自身はその目的や効果を理解しているのだろうが、それらをちゃんと生徒に説明し、意識付けを行わなければ十分な効果は得られない。またそんな状況で練習をしていても面白くないし、不満を持つ生徒もでてくるだろう。生徒はみな高いレッスン料金を払っているのだ。テニススクールには、各コーチに対してそのあたりの指導の徹底してほしい。
仕事で同様に、重要なのは「何のため」か
目的を意識することで、仕事でもその効果はぐっと跳ね上がる。
例えば顧客や他部署の担当から問い合わせがあった場合、聞かれた内容にただ応えるのではなく、なぜその問い合わせが発生したのか確認したほうが良い。問い合わせの裏には、相手が困っていること、本来やりたいと思っていて出来ない事がある。それが何か分からずに回答しても問題が解決しなければ、さらなる問い合わせが発生して双方でタイムロスとなるし、またせっかく時間をかけた回答が不十分で不満を抱かせる結果となりかねない。時間をかけすぎてもいけないが、背景・目的を想像すれば回答が1回で済み、コスパを高めるだけでなく感謝されて承認欲求を満たすことに繋がる。
ある程度時間を要する依頼対応であればなおさら、最終成果物のイメージを依頼者と認識合わせが必要だ。特に、依頼者から最終成果物の具体的な指示がない場合、時間をかけて作った資料が全くの意味のない、無駄な作業となりかねない。品質やスピード感の確認も重要だ。今ある情報をありもので良いから知りたいと言う場合なら、時間をかけてきれいに資料にまとめるのではなく、既存の資料をメール添付してそこに補足の文言を追加するだけで十分、ということもある。逆に、依頼元がどこかに提出するために、決まったフォーマットの報告書が欲しいと思ってたら、それ相応の品質や体裁が求められる。指示があいまいであれば、着手した時点もしくは3割程度作業が進んだ時点で確認する習慣を持とう。
自分から部下やベンダ等に依頼、指示する場合も同様に気をつけたい。ただマニュアルを渡して手順を教えるだけでは、類似パターンの作業や例外に対処することができない。その依頼・指示の背景や真の目的、作業の前後関係などをちゃんと説明しておかなければ、目的を誤ったまま作業を進めて期待と大きく乖離した結果になることもある。プログラムのように細かい作業手順を一つ一つ指示するのではない。「何のためか」を伝えて「どうすれば良いか」を自ら考えることを促そう。そのため必要なのは、細かい指示ではなく「正しさ」の判断基準を与えることだ。ここがあいまいだと不安や迷いを感じて自立の妨げになる。特に若手やその作業に慣れていない人には、最初の手厚いフォローが欠かせない。
「何のため」かを正しく理解できれば、指示内容に漏れや誤りがあった場合でも、自発的に漏れや誤りに気づいてくれる。相互補助の効果により、品質もコスパもグッと向上するのだ。せっかく時間をかけた作業が無駄になってしまうのは、コスパの面だけでなくモチベーションも低下してしまう。手厚く説明をするのが手間だと思っても、その手間を惜しまずに手厚くフォローすれば、部下の成長にも良い影響を与えるだろう。組織力も強化できるし、指示を出した側も支持を受けた側も、良い評価を得られる。
有料セミナーやスクールのススメ
社会人として中堅・ベテランともなれば、部下や同僚に指示・指導する機会が増えてくる。一昔前、我々が若手と呼ばれていた頃のIT業界は、手順やマニュアルなど整っておらず、また毎日が「誰も答えを知らないこと」に立ち向かわざるを得なかった。プログラマーやSEは職人気質な人が多く、教えてもらえることは入り口だけで、残りの多くは自分で調べたり先輩のやり方を見て学ぶことが求められた。そしてうまくいかなければ「なぜできないのか」と責められたりしたこともある。今そういった指導をすればパワハラ認定されるし、部下や若手はどんどん辞めてってしまう。今と昔では指示・指導のやり方は大きく変わっている。そのため若手や部下への指導方法に頭を悩ませる管理職は多い。今の時代に合った管理手法もまた、手順やマニュアルなどないのだ。だからと言ってトライ&エラーを繰り返せるほど、時間も人手も余裕はない。
かつては、仕事の仕方は管理手法含めて先輩や上司からを見て学ぶものだった。しかし会社と言う組織では上下関係があり、教えられる側の方が立場が弱いことが多かった。特に今の中堅・ベテランにとっては、立場の差が「従う理由」の一つとなりえてしまうため、この論理が通じない若手に指示・指導する際には、今の上司からの学びを活かすことが出来ない。
そんな時、お金を払ってスポーツクラブやスクール、またセミナーに通うことで、指示・指導をする側から受ける側に回ってみることがお勧めだ。お金を払う以上は客であり、教師やコーチとは対等以上の関係になる。そういった状況下での講師やコーチの指導の仕方や振る舞いを社会人中堅・ベテランの目線で観察し、教えを受ける側として評価をしてみると、「何のためか」を理解することがいかに大事か、身をもって実感できるはずだ。同等以上の立場の人への指示・指導方法も参考になる。良いと思ったところは参考にし、悪いところは反面教師にすればよい。そしてそこで学んだことを仕事にフィードバックして自ら実践すれば、仕事とプライベートの好循環が生まれる。
習い事にはお金も時間もかかるが、新たな人間関係の構築や趣味を増やすことは、今後の充実した人生の助けにもなる。自分に投資をするのに老い若いは関係ないし、何かを始めるのに遅すぎることはない。新しいことでなくても、中断していたことを再開するのも良い。2023年度はまだ始まったばかり。新年度に何か一つ、自分のために始めてみてはどうだろう。