3年前に事業会社に出向になってまず驚いたのは「裁量労働ではなくなる」ということだった。自社では入社して7~8年で裁量労働となり、基本給の一定率分の裁量労働手当を支給されていた。裁量労働になると休日や夜22時以降の勤務を除いて残業手当が出ないため、できるだけ効率的に仕事をする意識が働いた。その名の通り、時間の使い方に対して裁量が与えられ、働いた時間の長さが評価ではなくなる。極端な話、成果さえ出せば1日数時間勤務するだけでも良いのだ。そのため直接仕事と関係のないようなセミナーや展示会に参加したり、回覧されてきたビジネス雑誌を読むこともできていた。
裁量労働でなくなること
出向によってその裁量がなくなった。自社には毎月勤務時間を報告し、1日7.5時間を超えた分が残業代が支給されるようになった。出向先に自社の評価監督者がいない場合があり、私の上司も出向者ではない。出向者の勤務内容詳細を自社で管理できないので裁量は与えられない、ということらしい。しかし毎年の業績評価や出向先からの評価によって出向者の成果は自社にも伝わるのだから、本来は裁量労働とするかどうかは個人の能力によって判断すべきだ。おそらく、昔からある制度をずっと変えていないのだろう。一昔前の出向といえば島流しに近く、ITとは全く関係ない警備員や配送業者に出向となるケースもあった。しかし最近は事業会社やグループ会社への戦略的な出向も増えており、評価制度も向上しているので、出向者に裁量権限を与えられても良いと思う。
ただ、出向者から裁量労働にしてほしい、という声はあまり上がってこない。月に30時間程度残業すれば、残業代が裁量労働手当を上回るのだ。実際私も出向によって手取りの収入が大幅にあがった。残業が多い月は2割増しとなることもある。これは正直とてもオイシイ。裁量労働になっても出向先での役職が分かるわけではないので、役割や仕事内容がそのままであれば残業が付く今の状態の方が良い。裁量労働を希望することは、自ら給料を下げてほしいというようなものだ。
作業効率に対する意識の低下
だが出向して3年も経過すると、裁量労働でないことの弊害を感じるようになった。まず1日の時間の使い方がルーズになる。優先順位の高い重要な作業が中心だが、重要だが緊急ではない作業にかける時間が取れないことが多い。すぐに実害はでないのでその状態を放置していたのだが、ふと自分の時間の使い方を振り返ったとき、緊急でない作業に取り組む時間を作ろうという意識が働いておらず、作業を効率化する積極性を失っていることに気がついた。
例えばTeamsでチャットを受け取るとすぐに反応してしまう。メールなら未読にしておけば未着手のタスクとして管理できるが、チャットはその時対応しないと流れてしまう、という面もある。そのためチャットを受け取ると、それまでやっていた作業を中断し、別の作業を始めることが多く、気づけばいくつものファイルやフォルダが中途半端に開いた状態となる。そして作業の途中にそれらのファイルを見て別作業の途中だったことを思い出し、また元の作業を再開する。そのたびに頭を切り替える必要があり、何とも非効率だ。書きかけのチャットを送り忘れてあとからトレースが入ることもある。
また、5分10分の残業時間を惜しむようになってしまった。1日5分であっても1か月で100分。それだけで残業代が増えるのだ。定時が過ぎてキリが良いところまで終ったならばさっさと退社すればよいのに、ダラダラと残って残業代を稼ごうとする意識が働くようになった。まったく無駄な作業をしている、というわけではないが、特別優先度が高いわけでもなく、翌朝やっても十分に間に合う。どうせ残業するのなら、重要だが緊急性の低い作業をすればよいだが、そこまでのモチベーションは上がらない。なんとも情けない話だ。
嫁がフル在宅で、子供の保育園や学童保育のお迎えが不要となったため、どうしても早く帰らないといけない理由もなくなった。コロナ前で子供が小さいころは、積極的に子供のお迎えに行っていたため、遅くとも18時半には退社しないと間に合わなかった。1日の終りが決まっていれば、常に作業の優先順位付けが必要だ。まず重要なもの作業を終わらせ、緊急でないものは後回しにする、他の人に振る、といった判断が求められる。一つ一つの作業も、できるだけ手戻りがないように作業効率を意識していた。今はこういった意識、習慣が大きく欠如している。
時間の使い方を改めよう
とりあえずチャットに振り回される日々をなんとかしようと、チャットのポップアップ通知はオフにすることにした。本当に急ぎの要件であればチャットでなく電話がくるはずなので、自分の作業のキリが良いところでチャットを通知をチェックすればいい。そしてなにか依頼や相談事がきていてもすべてをすぐに対応する必要はない。返信だけでよいものは時間を決めてまとめて対応すればよいし、時間がかかる場合はその旨を先方に伝えておいて、タスクに組み込んであとで処理すればいい。まずはここから始めてみよう。
出向先では、出向者であるということと目先の忙しさを言い訳に、組織運営への意識が低かった。しかし昨年度の評価面談や研修でわかったことは、自社に対しては、出向先で組織運営に貢献していることも立派なアピール材料なのだ。また社会人歴20年を越えた身であればこそ、出向者であってもそういった役割・行動が求められる。目の前の作業に振り回されて日銭を稼ぐのではなく日々効率的に作業を行うことで、緊急性は低いが重要な作業、つまりは組織運営に関する作業に積極的に取り組まなければ、自社から高い評価を得ることは難しくなっていく。
2023年度、まずは時間と仕事内容に対する意識から変えていかなければ、と思った話。