統一地方選挙前半戦、大阪市長は松井前市長の引退により新人同士の争いとなったが、前市長の後継者として擁立した横山氏が圧倒的大差で当選を果たし新市長となった。2007年に橋本氏が大阪府知事に当選し、また2010年に大阪維新の会を結党してから13年経ったが、大阪は橋本-松井体制から吉村-横山体制に完全に移行したことになる。
吉村氏、横山氏ともに2011年の大阪市議会選挙で初当選し、橋本-松井体制のもとで経験・実績を積んで今に至る。大阪維新の会は、はじめは橋本氏一人の認知度が抜群で、そのあとの松井氏、吉村氏は橋本氏の知名度を生かして当選した、という面は否めない。しかし両氏とも各々が発信力を持ち、また政治家としての責任と覚悟があり、着実に大阪を変えていく実績を積み重ねていったことから、大阪維新の会の実行力と影響力は盤石なものとなった。創立者の橋本氏が政界を引退して10年以上も経ち、松井氏も政界を去るわけだが、今のところ大阪維新の会は後継者育成の仕組みがしっかりと機能している。横山氏の大阪市長としての実務面での評価はこれからだが、当選後の会見を見る限りでは大阪維新の会の政治家として何をすべきか、優先順位などの行動指針が着実に受け継がれており、期待が持てそうだ。
サラリーマンも政治家も土台作りから
サラリーマンであれば、入社後に必要な知識や技術を学び、そして自ら実践・経験してキャリアアップをしていく。技術を高める、組織をマネジメントするなど、業界や会社によっても様々なキャリアがあるが、基本的には所属する組織の指針に従い、また直属の上司や先輩の指導を受けて学んでいく。学生から社会人になると世界が大きく変わり、サービスを受ける側から提供する側に回る。バイトなどでサービスを提供するという経験を積むことはできるが、実際に会社に就職すれば、その責任や権限は格段に大きくなるため、求められることや出来ることは格段に広くなる。そして最初の数年で、社会人としての土台が出来上がる。
政治家もまた、サラリーマンとはまったく世界が異なる。府や市の職員であったり、官僚を経験していれば政治の実務面での経験を積むことはできる。しかし議会議員や知事、市長は国民の代表として選挙で選ばれ、国民の利益のための大局的かつ政治的な判断力と実行力が求められる。個人の能力や、政治家になる前の経験はさまざまだが、政治家としての実務経験は当選してからでなければ積むことが出来ない。政治家を志すからには人並み以上の覚悟は持っているのだろうが、それだけで政治家として生きていくことは難しい。党首や党役員、また先輩の議員から指導・教えを受けて党運営、議会運営を学び、経験を積んで政治家としての土台を作っていくのだろう。
政治家になるのは何のためか
実際のところ、各政党や個々の政治家がどのように後継者を育成しているか分からない。自民党などは派閥があり、そこに所属する中で教えを受けて学びを得るのかもしれない。派閥がなければ、個人のレベルで秘書や子供を後継者として育成することもあるだろう。だが、票集めのためのテクニックや、支援団体との付き合い方など、派閥争いや権力闘争が後継者育成の主目的になってはいないだろうか。たしかに当選しなければ政治家はただの人だ。実質、出来ることは何もない。そのためまずは当選し、自分を選んでくれた人のためになる政策を実現することが本分ではある。だが、それでも政治家である以上、もっと大きな視野を持ち、より大局的な判断を期待したい。例え自分を支持してくれた人たちの理に反することであっても、それがより大きなゴールのために必要であれば決断し、実行してほしい。そういった、政治家としての心構えを教え、また自ら判断し実行する姿勢を見せることで後継者は育っていく。
選挙を重ねるごとに大阪維新の会の勢力が増していく。大阪ではすでに府議・市議ともに過半数を占めており、今後の大阪万博やIR推進に向けた体制が整った。だが、一つの意見に偏ることはリスクもはらんでいる。大衆に押された政党が、気付けば世論にあらがうことが出来ずに大戦に突き進んだ苦い過去もある。そのため自民党やその他の野党は敗因をしっかり分析し、対策を講じていってほしい。いくつもの意見、主張を多面的に評価することで、政策は良くなっていく。これが議会制民主主義の本質なのだ。一党独裁は、実行力はあるが危険もはらんでいる。うまくいっている間は良いが、やはり他党による牽制機能が働く状態が、健全な政治だと思う。
反対するだけでなく、志を持って必要なことを実行する
反対と叫ぶだけでは維新には勝てない。大阪はすでに、この10年間で「良い方向に変われること」を知っている。リスクに対して不安をあおり、ただ反対するだけならただの評論家だ。政治家にはより大局的な視野と実行力が求められる。財政難、少子高齢化という難題に対してなにも手を打たなければ、50年後の日本はどうなってしまうのか。その現実を直視して、何が必要かを考える。維新の政策より優れた対案がないのなら、共にその政策を実行するという選択肢もある。反対しなければ維新との差別化ができないのであれば本末転倒だ。政治家である以上、国民にとって真に大切なことを実行し、この国をよくするための行動をとってほしい。
大阪維新の会がこの10年間でやってきたことがまさにコレで、橋本氏、松井氏の思いや努力がようやく花開いたと言える。この勢いはまだしばらく続くだろう。しかしさらに10年後にどうなるか分からない。自民党や他党の議員たちは、これから10年後を見据えて何をすべきか考え、健全な政治を大阪にもたらすべく行動する必要がある。それは今の支持者の意向に反し、権力や利権を手放すことになるかもしれない。だが、今変わらなければ10年後は今より良くなることはない。他力ではなにも変わらない。
支持者の多数決でのみしか判断できないなら政治家はいらない。大事なのは志だ。