ある休日、その日は外出の予定は特になく、息子は終日宿題やテスト勉強をする予定だった。そして夕食時、息子にどれくらい勉強できたかを聞いてみると、少し疲れた様子で「5時間くらい」と答えた。中学受験を経験し、ある程度の進学校である私立中学に通う息子からすれば、休日の勉強時間が5時間というのは短い。長ければよいというわけではないが、テストが近づいていたので7、8時間は勉強に充てても良いだろう。ただ勉強時間よりも息子の疲れた様子が気になった。また、アプリで息子のスマホ利用時間を見ると5時間を超えていた。主にスマホゲームやyoutubeだ。
去年の12月に息子にスマホを与えてから、しばらくの間はメリハリをつけてスマホ利用と勉強を両立できていたのだが、ここ最近はそのバランスが崩れてきたように見える。友人やネットから面白いゲームや動画の情報を聞いたら試してみたくなるだろうし、それ自体は悪いことではない。今の世の中、インターネットを上手く付き合っていくことが、人生の成功を左右するといっても過言ではない。スマホの使用を過度に制限したことで、制限が解除されたとたんに歯止めが利かなくなり、取り返しのつかない失敗を犯す事態は避けたい。早いうちからスマホやネットの良い面、悪い面を学んでおくことは重要だ。小さな失敗をして、実体験を通じて学ぶことが一番身になるだろう。そういった考えから、スマホの使用についてはある程度息子に任せていたが、そろそろ対処が必要のかもしれない。
勉強と娯楽はマルチタスクにできない
リビングで勉強をしていた息子のすぐそばにスマホが置いてあった。そして勉強の合間に度々スマホをいじっていた。本人曰く、スマホで調べたり勉強にも使っている、とのことだった。そこで息子に、5時間勉強した手応えを聞いたところ、予定していた宿題はできた、とのこと。だが5時間宿題をやるという行為ではなく、どれだけ内容を理解し身に着けたかが重要だ。また、5時間机に向かっていても、スマホに中断されいては集中も妨げられ、実質はどれだけ勉強できていたか分からない。5時間集中できたか、とたずねるとごにょごにょと口を濁していた。
スマホは通信手段というよりも、娯楽を享受するための道具としての側面が大きい。ゲームや動画、SNSといった娯楽の入り口だ。せっかくスマホを持っているのだから、その娯楽を味わい、日々の生活の一部として楽しめばよい。ただ、娯楽と学校の勉強は真逆に位置しており、一度頭が娯楽モードに切り替わると勉強モードに戻すには一定の時間が必要になるし、より集中力も必要だ。そのため、ながら勉強は効果が限定的で、頻繁な頭の切り替えによって脳が疲弊するため、いつも以上に疲れるのだ。
スマホを見ながら勉強する後ろめたさもあるだろう。また、5時間やっただけの手ごたえも感じられず、それなのに頭はとても疲れている。そんなモヤモヤした状態の息子に対して「少なくとも勉強する時間はスマホから離れたほうが良い、一時的に電源を切ったらどうか」とアドバイスをしておいた。勉強時間の長さよりも、まずその質を向上することが先決だ。
仕事はマルチタスクだらけ
私は金融系の事業会社に出向するシステムエンジニアで、仕事の大半はデスクワークだ。デスクワークは知識労働なので、1日働けばそれなりに頭が疲れる。担当するシステムの問い合わせ・依頼対応や、開発・更改案件などのマネジメントやその中のタスク推進など、毎日多岐にわたるタスクに追われている。上席との会議でプレゼンをすれば、ストレスやプレッシャーによって心も疲れる。
プログラマーであれば、設計やコーディング、レビューなど基本的にプログラムに関する作業が中心となるし、問い合わせやトラブル対応を除けば別のプログラムに関する作業を同時並行で行うことは基本的にない。しかしシステムエンジニアの場合は仕事の種類、範囲がぐっと広がる。企画フェーズなら、決められた成果物を作ることよりも調整・合意形成のための資料作りが多く、事前調整・調査のための打ち合わせもある。運用フェーズを担当していれば緊急の問い合わせやトラブル対応もある。企画から運用まで幅広く担当していると、定例の会議の合間に緊急性の高い飛込み・割込み作業が入ってくることがあり、幅広い作業を同時並行で処理することが増える。だが、同時並行とはいっても、まったく同時に二つの作業をすることはできない。
他の人への依頼が最優先、自分の作業は数珠繋ぎ
頭は一つしかないし、手は二本しかない。会議に参加しながらメールを書く・資料を作る、といった内職をしようとしても、実際は細かく意識を切り替えて複数の作業を順番に処理している。作業を一度切り替えると集中するまでに一定時間のロスが発生するため、集中を要する作業をマルチタスクで進めることはかえって非効率となる。そのため、自ら進める作業と、問い合わせや調査など他の人に依頼する作業を待ちが発生しないように順序だてて処理することが、作業効率を大きく左右する。
仕事が早い人とそうでない人の違いは、この順序だてがうまいかそうでないかに寄るところが大きい。自分以外のタスクがボトルネックになると全体スケジュールの遅れを自分でコントロールできなくなるため、優先的に準備して早めに依頼をかける。仕事の出来の大半は、着手する前の整理と優先順位付けで決まるといってよい。まず自分以外のタスクを進めてから、それと並行して自分のタスクに集中して一つずつ着実に終わらせていく。
幅広く雑多なタスクを効率よく進めるには、自己の能力や記憶に頼っていては限界がある。そのためタスク管理のためのツールを使用したり、エクセルで管理表を作ったり、個人レベルであればメモ書きや手帳を使用したりする。中長期なタスクは適度に分割して予定・実績などの進捗を管理する。一定のルールに則った問い合わせや依頼事項であればQA表やタスク登録して対応漏れを防ぐ。チームなら各タスクを各担当に割り振れば負担を分散できるし、仕事量も平準化され、優先順位付けも出来る。優先順位が高いタスクがたまっていれば、残業して対応するかどうかの判断もできる。一旦その判断ができれば、あとは決められた順番通りに数珠繋ぎでタスクを処理していけばいい。
スキマ時間を上手く使って効率を上げよう
システムエンジニアに限った話ではなく、社会人には様々なツールや手持ちのリソースを最大限に活用し、最大限の効果を得ることが求められている。
自分で一度にできる作業は一つしかない。そのため作業効率を高めるには、まずは重要で優先順位の高い作業に集中する。そして各作業のスキマ時間を重要度の低い作業や休憩時間に充てていく。やらない事を決めることも必要だ。そうして取捨選択し、作業の計画を立てて段取り良く進めていく。
仕事でも家事でも勉強でも娯楽でも、同じレベルで同時に集中することはできない。音楽を聴きながら家事をする、オーディオブックを聞きながら通勤する、といった相反しないことならマルチタスクでも問題ないし、相互に良い効果を与えることもある。しかし息子のように、勉強と娯楽を並行で進めようとすると効果・効率がひどく下がり、また脳も疲弊する。90分勉強したら10分~15分休憩してyoutubeを見る、のように時間を区切ってメリハリをつける必要がある。
息子には、スマホと勉強の両立ができずに失敗しても、まだリカバリするチャンスがある。そう思ってまずは軽めのアドバイスに留めておいたが、スマホやゲームをしている時間が長い親としてはとても不安だ。だが仕事でも家庭でも、マイクロマネジメントばかりしていては自主性や主体性を損ない、成長を止めてしまう。
親としては息子の成長のため、そして管理者としては自分の成長のため、今はまだ我慢の時だ。