ドラえもんの第1話を読んだことはあるだろうか。勉強せずに昼寝や遊んでばかりのダメな奴(=のび太)を祖父にもつセワシが、自分の辛い現状を改善するために過去を変えたい、と未来からドラえもんをのび太のもとに送ったところから物語は始まる。今がつらいのは自分の先祖がちゃんと勉強しなかったからだ、というセワシの考え方は責任転嫁にもほどがある。
高収入を得るために必要なこと
親の収入と子供の学力には因果関係があるらしい。たしかに塾や習い事、進学にはお金がかかる。親の収入が少ないことで進学をあきらめる子供も一定数いるだろう。しかし学校を最大限に利用すれば塾に行かなくても学ぶことはできる。分からない事があれば学校で先生に聞けばタダで教えてくれる。図書館にいけば参考書もあるだろう。塾に行けば強制的に勉強する時間を与えられるが、勉強の効果・効率は本人のやる気に大きく左右される。塾に行きさえすればよい、というものではない。やる気があればいくらでも状況は変えられる。
進学するために奨学金を使うという選択肢もある。返済の必要がある奨学金は未来の自分に対する借金であり、その借金を返済できないことが社会問題にもなっているが、返済不要の奨学金は別として、借りたお金を返すのは当たり前の話だ。借金をしてまで進学したのに、返済に困るような企業・職種にしか就職できないのは学生期間の過ごし方や意識にも問題があると言わざるを得ない。学生の間は様々な出会いがあり、チャレンジする機会や時間もある。それらをひっくるめて、大学は将来のための投資、経験、学びの場なのだ。大学で遊ぶために借金をするわけではない。
高収入を得ることは地道に努力を重ねた結果だ。塾や私立に行ったとしても、やる気をもって勉強し、チャレンジし続けたからそれなりの企業、職種に就職できたのだ。親が高収入、という理由だけで子供の学力があがり子供も高収入を得られる、なんて単純な話ではない。
もちろん、親の収入が少ないことで最低限の学びの機会すら保証されない、ということはあってはならない。日本には国や自治体による支援があり、世界的に見れば恵まれているほうだとしても、学ぶ機会は平等であるべきで、この点は支援策のさらなる拡充を期待したい。また、社会的な価値、貢献度が高いにもかかわらず収入が低い職種についても、本来は価値に見合った収入が保証されるべきだ。こういった社会のひずみの是正するのが政府・政治家の仕事であり、個人にはどうしようもない。
それでもやはり、個人のレベルでやる気と意識を高くもって研鑽に励むことが、高収入を得るための最低条件だろう。重ねた努力の量によって確実に、高収入・好待遇に近づく。国や政府はあくまで支援、最低保証をしてくれるだけだ。
のび太が0点を取る理由
セワシの生活環境が辛いのはのび太が「ダメ人間」だったから、というのはある意味で妥当なのかもしれない。のび太が努力をせずに自己研鑽、自己投資を怠ったことは自身の低収入に繋がる。それだけでなく、そういった姿勢・思想は家庭内での教育を通じて子供にも影響を与える。その結果、孫のセワシものび太と同じ「ダメ人間」思想を引き継いだ、ということだ。
しかしのび太がテストで0点ばかりをとる、というのはどう考えても腑に落ちない。学校のテストはクイズとは違うし、先生と生徒の戦いではない。あくまで学習成果を測るためのものであり、また学習意欲を向上させる道具に過ぎない。自分がどこまで理解できていて、何が足りないかを自覚させる。足りない知識や苦手分野の理解を補うことで、学力はより効果的に向上していく。そのため全員が100点を取れるような簡単なテストや、1問も解けないような難しいテストは本来の目的を逸脱している。出題者に問題があると言わざるを得ない。
のび太はダメ人間というレッテルは貼られているものの、ごく普通の小学5年生だ。お菓子や本を買ったり、買い物を手伝ったり、テレビや漫画を読む、といった最低限の能力があれば、小学校のテストで0点を取るなんてことは考えられない。学校を欠席したり、テストを受けなかったわけではなければ、逆に0点をとる方が難しい。つまりのび太の0点のテストは、のび太の学力そのものを表しているのではない。製作者側の都合で、のび太=ダメ人間を演出するためにはテストで0点を取る、という演出が必要だった、ということだろう。
またドラえもんには、0点を取ったのび太に対してママやパパが叱るシーンも度々登場するが、果たして彼らはのび太の何を叱っているのだろうか。親としては、0点を取った結果を叱るのではなく、その原因を一緒になって考えて、少しでも結果が良くなるようにともに寄り添うべきではないか。テストはあくまで指標に過ぎない。学校のテストで良い点をとってもそれだけで良いことがあるわけでもないし、点が悪くてもすぐに害があるわけではない。ただ、0点をとるのは普通なことではない。子供が何か普通ではない状況に陥っているのなら、その状況をまず理解しなければならない。「だからあなたはダメなんだ」と叱ったところで、何の意味もない。そこからどう抜け出すかを一緒に考えて、手助けするのが親の務めではないか。子供の自己肯定感を高めることが大事だ。
のび太の未来が変わった理由
ドラえもんが来たことで未来が変わった。のび太は「ダメ人間」から脱し、しずかちゃんと結婚した。しかしドラえもんは便利な未来のひみつ道具を直接未来を変えるために使ったわけではない。のび太はひみつ道具を使ってドラえもんと共に様々なことにチャレンジし、失敗体験、成功体験を積み重ねた。ドラえもんはパパ・ママに代わってのび太に寄り添い、のび太のチャレンジを支えた。その結果のび太は自己肯定感を高めることができたのではないか。
ひみつ道具はあくまできっかけに過ぎない。その場しのぎで問題を解決しても、結局は自分自身が変わらなければ未来は変わらないのだ。